MISSION
光の浴び方が
健康に及ぼす影響を
明らかにする
光情報は眼から入り、脳の中枢時計(SCN)で時刻情報として処理されます。神経伝達物質やメラトニンなどのホルモンによって、各臓器に存在する末梢時計の時刻が中枢時計と同期されます。この体内時計の仕組みによって、わたしたちの体は外部環境に対して、常に最適な状態でいられるようになっています。
私たちは日常生活でどのくらい光を浴びているのでしょうか?寝室の明るさはどのくらいでしょうか?光は健康にどのような影響を及ぼしているのでしょうか?信じられないかもしれませんが、世の中にはこれらの質問に答えるためのデータがありませんでした。
私たちの研究チームは世界で初めて日常生活の光曝露データを実測し、現代人の光の浴び方を明らかにし、光の健康影響を疫学的手法を用いて研究しています。これまでに多くの新しい知見を報告してきました。今後さらに分析を進めていき、どのような光の浴び方をすれば健康に過ごせるのかを明らかにしていきます。
METHODS
疫学研究で取得した
ビッグデータを
統計解析する
前向きコホート研究という研究デザインで、光曝露の健康影響を明らかにしようとしています。研究の方法について簡単に説明します。
2010年から10年間かけて3012名のベースライン調査を行いました。日常生活の光曝露量を測定するために、日中の光は腕時計型の照度計を、夜間の光は寝室に設置した照度計を用いて測定しました。同時に、血液検査やアンケート調査、頚動脈超音波検査やアクチグラフを用いた活動量測定などを行っています。その後毎年アンケート調査を行い健康状態を追跡しています。数年に一度、健康診断として身体計測や血液検査、頚動脈超音波検査などを行っています。また長期的には疾病発症や死亡の調査をしています。
これらのビッグデータを統計解析し「どのような光の浴び方がをすれば健康に過ごせるのか」ということを明らかにします。
ACTIVITIES
01 光の
疫学データサイエンス
健康を大きく左右する体内リズムは、光の浴び方に強く影響を受けます。私たちは、大規模な集団を対象に日常生活で浴びる光を持続測定し、現代人が浴びている光の量・質・タイミングを明らかにしようとしています。さらに、光の浴び方がさまざまな健康データや疾病発症とどのように関連するかを科学的に分析しています。そして将来的に、どのような光の浴び方をすれば健康に過ごせるのかを明らかにしていきたいと考えています。
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主な関連論文
1. Obayashi K, Tai Y, Yamagami Y, Saeki K. Associations between Indoor Light Pollution and Unhealthy Outcomes in 2,947 Adults: Cross-Sectional Analysis in the HEIJO-KYO Cohort. Environ Res, 215 114350, Dec, 2022. 2. Obayashi K, Yamagami Y, Tatsumi S, Kurumatani N, Saeki K. Indoor Light Pollution and Progression of Carotid Atherosclerosis: A Longitudinal Study of the HEIJO-KYO Cohort. Environ Int, 133 105184, Dec, 2019. 3. Obayashi K, Saeki K, Kurumatani N. Bedroom Light Exposure at Night and the Incidence of Depressive Symptoms: A Longitudinal Study of the HEIJO-KYO Cohort. Am J Epidemiol, 187(3) 427-434, Mar, 2018. 4. Obayashi K, Saeki K, Kurumatani N. Ambient Light Exposure and Changes in Obesity Parameters: A Longitudinal Study of the HEIJO-KYO Cohort. J Clin Endocrinol Metab, 101(9) 3539-3547, Sep, 2016. 5. Obayashi K, Saeki K, Iwamoto J, Okamoto N, Tomioka K, Nezu S, Ikada Y, Kurumatani N. Positive Effect of Daylight Exposure on Nocturnal Urinary Melatonin Excretion in the Elderly: A Cross-sectional Analysis of the HEIJO-KYO Study. J Clin Endocrinol Metab, 97(11) 4166-4173, Nov, 2012.
02 メラトニンの
疫学データサイエンス
メラトニンは夜間に松果体から分泌されるホルモンで、体内リズムの調整や睡眠と深く関わっています。夜に光を浴びるとメラトニンの分泌は抑制され、体内リズムの乱れや睡眠障害が引き起こされます。メラトニンは、血圧低下・発がん抑制・抗酸化・精神安定・免疫賦活など様々な生理作用を有していることが知られていますが、大規模な研究は乏しいのが現状です。私たちの研究チームは、3000人以上のメラトニンの尿中代謝産物を測定し、健康データや疾病発症との関連を研究しています。
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主な関連論文
1. Obayashi K, Saeki K, Iwamoto J, Tone N, Tanaka K, Kataoka H, Morikawa M, Kurumatani N. Physiological Levels of Melatonin Relate to Cognitive Function and Depressive Symptoms: The HEIJO-KYO Cohort . J Clin Endocrinol Metab, 100(8) 3090-3096, Aug, 2015. 2. Obayashi K, Saeki K, Kurumatani N. Higher Melatonin Secretion is Associated with Lower Leukocyte and Platelet Counts in the General Elderly Population: The HEIJO-KYO Cohort. J Pineal Res, 58(2) 227-233, Feb, 2015. 3. Obayashi K, Saeki K, Kurumatani N. Association between Urinary 6-sulfatoxymelatonin Excretion and Arterial Stiffness in the General Elderly Population: The HEIJO-KYO Cohort. J Clin Endocrinol Metab, 99(9) 3233-3239, Sep, 2014.
03 睡眠の
疫学データサイエンス
睡眠は多くの謎に満ちていますが、近年の睡眠研究の発展は著しく様々なことが分かってきました。また睡眠の質を簡便にかつ客観的に測定できるウェアラブルデバイスの開発も進んでいます。私たちの研究チームは、大規模な集団を対象に客観的な睡眠指標を測定し、健康データや疾病発症との関連を研究しています。また高齢者の半数以上が何らかの睡眠障害に悩んでいます。睡眠障害の新たな危険因子を見つけることは非常に重要であり、私たちの測定したデータは新たな治療法の基礎情報になると考えています。
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主な関連論文
1. Kataoka H, Saeki K, Yamagami Y, Sugie K, Obayashi K. Quantitative Associations between Objective Sleep Measures and Early-Morning Mobility in Parkinson’s Disease: Cross-Sectional Analysis of the PHASE Study. SLEEP, 43(1), Jan, 2020. 2. Oume M, Obayashi K, Asai Y, Ogura M, Takeuchi K, Tai Y, Kurumatani N, Saeki K. Objective Sleep Quality and Nighttime Blood Pressure in the General Elderly Population: A Cross-Sectional Study of the HEIJO-KYO Cohort. J Hypertens, 36(3) 601-607, Mar, 2018. 3. Obayashi K, Kurumatani N, Saeki K. Gender Differences in the Relationships between Chronic Kidney Disease, Asymmetric Dimethylarginine, and Sleep Quality:The HEIJO-KYO Cohort. Nitric Oxide, 79(9) 25-30, Sep, 2018.
04 夜間頻尿の
疫学データサイエンス
年齢とともに夜間にトイレに行く回数は増えていきます。高齢者の半数近くが夜間に2回以上トイレに行く夜間頻尿であり、その危険因子の同定や健康影響を知ることは不可欠です。私たちの研究チームでは夜間尿量や夜間排尿回数に関する大規模データを取得しており、これまでに新しい知見を報告してきました。1人でも多く夜間頻尿で悩む方を減らすことを目標に研究を続けています。
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主な関連論文
1. Obayashi K, Saeki K, Kurumatani N. Association between Melatonin Secretion and Nocturia in Elderly Individuals: A Cross-Sectional Study of the HEIJO-KYO Cohort. J Urol, 191(6) 1816-1821, Jun, 2014. 2. Obayashi K, Saeki K, Negoro H, Kurumatani N. Nocturia Increases the Incidence of Depressive Symptoms: A Longitudinal Study of the HEIJO-KYO Cohort. BJU Int, 120(2) 280-285, Aug, 2017. 3. Obayashi K, Saeki K, Kurumatani N. Quantitative Association between Nocturnal Void Frequency and Objective Sleep Quality in the General Elderly Population: The HEIJO-KYO Cohort. Sleep Med, 16(5) 577-582, May, 2015.
05 その他の
疫学データサイエンス
私は「光」「メラトニン」「睡眠」「夜間頻尿」以外にも共同研究者として多くの研究に関わっており、いくつか紹介します。
・温度環境のデータサイエンス(奈良県立医科大学 佐伯圭吾先生)
・騒音環境のデータサイエンス(奈良県立医科大学 山上優紀先生)
・皮膚温のデータサイエンス(奈良県立医科大学 田井義彬先生)
・パーキンソン病のデータサイエンス(奈良県立医科大学 形岡博史先生)
・緑内障や白内障のデータサイエンス(奈良県立医科大学 吉川匡宣先生)
・双極性障害のデータサイエンス(藤田医科大学 江崎悠一先生)
・病室環境のデータサイエンス(奈良県立医科大学 岩本淳子先生)
これらの研究では、環境因子や生体情報に関する大規模データを取得し、疾病発症や病期進行との関連を研究しています。
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主な関連論文
1. Yamagami Y, Obayashi K, Tai Y, Saeki K. Association between Indoor Noise Level at Night and Objective/Subjective Sleep Quality in the Older Population: A Cross-Sectional Study of the HEIJO-KYO Cohort. SLEEP, (in press), Aug, 2022. 2. Saeki K, Obayashi K, Iwamoto J, Tanaka Y, Tanaka N, Takata S, Kubo H, Okamoto N, Tomioka K, Kurumatani N. Influence of Room Heating on Ambulatory Blood Pressure in Winter: A Randomised Controlled Study. J Epidemiol Community Health, 67(6) 484-490, Jun, 2013. 3. Tai Y, Obayashi K, Yamagami Y, Saeki K. Inverse Association of Skin Temperature with Ambulatory Blood Pressure and the Mediation of Skin Temperature in Blood Pressure Responses to Ambient Temperature. Hypertension, 79(8) 1845-1855, Aug, 2022. 4. Obayashi K, Saeki K, Yamagami Y, Kurumatani N, Sugie K, Kataoka H. Circadian Activity Rhythm in Parkinson's Disease: Findings from the PHASE Study. Sleep Med, 85(9) 8-14, Sep, 2021. 5. Nishi T, Saeki K, Miyata K, Yoshikawa T, Ueda T, Kurumatani N, Obayashi K, Ogata N. Effects of Cataract Surgery on Melatonin Secretion in Adults 60 Years and Older: A Randomized Clinical Trial. JAMA Ophthalmol., 138(4) 405-411, Apr, 2020. 6. Yoshikawa T, Obayashi K, Miyata K, Saeki K, Ogata N. Increased Nighttime Blood Pressure in Patients with Glaucoma: Cross-Sectional Analysis of the LIGHT Study. Ophthalmology, 126(10) 1366-1371, Oct, 2019. 7. Esaki Y, Obayashi K, Saeki K, Fujita K, Iwata N, Kitajima T. Association between Circadian Activity Rhythms and Mood Episode Relapse in Bipolar Disorder: A 12-month Prospective Cohort Study. Transl Psychiatry, 11(1) 525, Oct, 2021. 8. Iwamoto J, Saeki K, Kobayashi M, Yamagami Y, Yoshida O, Kurumatani N, Obayashi K. Lower Incidence of In-Hospital Falls in Patients Hospitalised in Window Beds than Non-Window Beds. J Am Med Dir Assoc, 21(4) 476-480, Apr, 2020.
RESEARCHER
大林 賢史
KENJI OBAYASHI, MD, PhD
奈良県立医科大学 疫学・予防医学講座 特任准教授
医療法人啓成会グループ CEO
東京医科大学医学部を卒業後、東京女子医科大学付属心臓血圧研究所に入局。心不全や不整脈に関する循環器臨床に従事した後、奈良県立医科大学住居医学講座助教として疫学研究を開始した。2017年から同大学疫学・予防医学講座准教授に着任、2020年から現職。主に光環境が生体リズムや健康に及ぼす影響に関する疫学研究を実施している。専門は疫学、循環器学。
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主な受賞
日本医師会 医学研究奨励賞
日本疫学会 奨励賞
日本時間生物学会 学術奨励賞 -
主な資格
日本疫学会認定上級疫学専門家
社会医学系専門医協会認定社会医学系専門医指導医
日本衛生学会認定衛生学エキスパート医
日本循環器学会認定循環器専門医
日本内科学会認定内科認定医
日本医師会認定産業医
日本医師会認定健康スポーツ医